狂いゆく世界で 〜オードの兄妹〜


プロローグ


強大なる帝国の前に、解放軍は敗れた。
光の公子・セリスは討たれ、ここに人々の希望は完全に潰えたかに思われた。

世界は再び、ロプトウスの闇に覆われるのか――。

――否。
人間は、そんなに惰弱な生き物ではなかった。

願いを託した英雄の死に、かえって人々は危機感を強めた。
皇帝に即位したユリウスが、さらなる暴政を繰り広げたことで、それは臨界点を突破する。
かつてのように、少数の英雄を頼みにした抵抗ではない。
大陸全土で、同時多発的に有象無象の反抗勢力が生まれ、人々は飽くなき闘争を開始した。
そして、世界は長く、永く、未曾有の大戦禍に覆われることとなる。

そう。人間は、そんなに惰弱な生き物ではなかった。
そんなに惰弱な生き物でもなければ、美しい生き物でもないのだ。
どこまでも生き汚く、天に定められた領分を越えて、闇を削り、山を拓き、海を侵して繁栄した。

『お前が深淵を覗き込むとき、深淵もまた、お前を覗き込むのだ』

終わりの見えない闘争の果て。
いつしか人々は、ロプトウスをも呑みこむどの狂気を帯びていった――。

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